◇テニスコート
テニスコート 日本のサーフェスの歴史を辿る
~クレー、ハード、砂入り人工芝、そして世界のサーフェス~
テニスコートに立ったとき、「コートの表面」を意識したことはありますか?現在、日本のテニスクラブで多く見られるのは砂入り人工芝、いわゆる「オムニコート」です。しかし、日本のテニスコートが最初から人工芝だったわけではありません。今回は、日本のテニスコートがどのように変わってきたのか、その歴史を少し振り返ってみましょう。
■昔のテニスコートといえば「土」
昭和のテニスを知る方なら、テニスコートといえば茶色いクレーコートを思い浮かべる方も多いでしょう。学校のテニスコートも、民間テニスクラブも、長い間クレーが中心でした。
関東では「荒木田土」が良いコート土として知られてきました。利根川などの河川沿いから採取される粘土質の土を利用し、適度な粘りと保水性を持つ土をコートづくりに使っていたのです。ただし、クレーコートは「造れば終わり」というものではありません。むしろ、そこからが大変です。雨が降ればぬかるむ。雪が降れば除雪が必要。晴天が続けば乾燥して土が締まり、強風が吹けば表面の土が飛ばされる。プレーによって削られた部分には土を補充し、ローラーをかけ、ブラシで整える。クレーコートは、天候と相談しながら毎日のように手を入れる必要がありました。まさに「コートを育てる」という感覚だったのかもしれません。
■1970年代、ハードコートの時代へ
1960年代から70年代にかけて、日本ではテニス人口が増え、施設も増えていきました。当時、国内ではクレーが中心でしたが、世界のスピードに対応するため、あえて速いサーフェスで大会を行う動きもありました。日本テニス協会の資料でも、1960年代にはすでに「世界のスピードに対抗する」ための速いサーフェスが意識されていたことが分かります。そして1970年代後半から1980年代にかけて、ハードコートの存在感が大きくなっていきます。アメリカのテニス文化の影響もあり、コンクリートやアスファルト系のハードコートは、「土のような日々の整備が少ない」「年間を通して使いやすい」という合理性もありました。
世界を見ると、USオープンは1978年にハードコートへ移行。さらに全豪オープンも1988年からハードコートになりました。日本でも1970~80年代にハードコートが広がりましたが、やがて日本独自の事情が大きな意味を持つようになります。
■日本の四季に合った「砂入り人工芝」
それが、雨の多い日本の気候です。梅雨、台風、秋雨、冬の雪……。
クレーは雨に弱く、ハードも雨上がりには滑りやすい。そこで登場したのが「砂入り人工芝」という第三の選択肢でした。
日本初の砂入り人工芝「オムニコート」は1983年に正式発売。1984年には神戸市総合運動公園に16面が施工され、1985年のユニバーシアードで使用されたことをきっかけに、一気に普及していきました。クレーのような柔らかさを持ちながら、雨後の再開が比較的早く、日常の維持管理もしやすい。これは、四季があり、雨の多い日本のテニス環境に非常によく合いました。
日本テニス協会の調査でも、2019年のテニス施設では砂入り人工芝が54.9%と過半数を占め、2012年の49.5%からさらに増えています。現在の日本では、まさに代表的な屋外サーフェスと言えるでしょう。
■インドアとカーペットという選択肢
さらに「天候そのものを気にしない」という発想から発展したのがインドアテニス施設です。雨も雪も関係ない。暑さや寒さの影響も抑えられる。インドアではカーペット系サーフェスも使われ、屋外とは違ったプレー感覚を楽しめる環境がつくられてきました。テニスコートは、単に「ボールを打つ場所」ではありません。その土地の気候、施設の維持管理、利用者の目的によって、最適なサーフェスが選ばれてきたのです。心と身体のリフレッシュにインドアテニススクールが人気なのも頷けます。
■では、世界のトップ選手は?
ここが面白いところです。世界のグランドスラム、四大大会を見てみると、
全豪オープン=ハードコート
全仏オープン=クレーコート
ウィンブルドン=芝(グラスコート)
全米オープン=ハードコート
と、サーフェスがそれぞれ違います。全豪は1988年からハード、全米は1978年からハードへ移行しました。つまり、世界を舞台に戦う選手にとっては、「自分はハードが得意」「クレーなら得意」というだけではなく、異なるサーフェスに対応する能力が重要になります。
■「自分に合うコート」は人それぞれ
実際にプレーしてみると、サーフェスによってボールの弾み方、球足、フットワーク、滑り方、身体への感覚まで違います。
・ストロークをじっくり組み立てたい人。
・早い展開を好む人。
・ネットプレーが得意な人。
・足元を使って粘り強く戦う人。
同じテニスでも、コートが変われば「やりやすい」「ちょっと苦手」が変わります。だからこそ、サーフェスを知ることは、自分のテニスを知ることにもつながります。
■上尾グリーンテニスクラブのコートから
開業当初はハードコート。そして、日本の四季に合わせて砂入り人工芝。振り返ってみると、テニスコートの歴史も日本の気候やテニス文化、そしてプレーヤーの求めるものの変化そのものなのかもしれません。普段何気なく立っているコートも、少し歴史を知ると見え方が変わります。
「今日はコートの感触がいいな」
「この球足、気持ちいいな」
そんな小さな発見も、テニスの楽しみの一つ。
さあ今日も、上尾グリーンテニスクラブの砂入り人工芝コートで。
自分に合ったテニス、自分らしいプレーを楽しみましょう!
